THE READING EXPERIENCE

他人のビジネスを擬似体験できる本こそ至高と信じ、そのような本を発掘・紹介するブログです。

東京地検特捜部って何してるのかわかる→真山仁『売国』の書評・感想

当ブログのコンセプト(というか僕の選書スタイル)は、他人のビジネスストーリーを疑似体験できる本、ということ。自己啓発本でも、仕事術的なものでもなく、読書を通じて他人のエクスペリエンスに乗っかることができるのか、その一点を基準にしています。

その意味では、別にフィクションかノンフィクションかはこだわっておらず、いやむしろフィクションのほうがテーマによっては楽しめるもの。そのため経済小説のジャンルだって、大いに学びがあるものです。半沢直樹シリーズには「銀行って大変なんだな」という普遍的事実を納得感や理不尽さの具体例をもって体感し、ハゲタカシリーズには「ファンドマネージャーにもいろいろあるけどこの辺のレベルになるとカリスマと呼ばれる水準なのかな」とその業界を知りたくなるきっかけになったものでふ。

もちろんその理解度は、あくまで本を読んだだけで、しかもフィクションですから、人前で披露できるようなものではないでしょう。ただ、未知の業界について知るきっかけを得ることや、少なくともその業界を取材している著者が描く作品に触れることは、大いに学びがをあるうえに単純に楽しいという、一石二鳥があるものです。

さてそんな意図をもって手にした真山仁さんの「売国」は、期待を裏切らない作品でした。

 

売国 (文春文庫)

売国 (文春文庫)

 

 「売国」は、東京地検特捜部の主人公が、ある大物政治家を逮捕するまでを描いた作品。並行して描かれる宇宙行政とのストーリー展開も、緊張感を高めます。

警察と検察の違いがわからないとか、検察とか木村拓哉のドラマ「HERO」くらいでしか知らないとか、そういう人でも楽しめると思います。基本的すぎる知識は、時にはぐぐったりと自己解決が必要かもしれません。ただ、例えば「法務省と検察の力関係」「政治家の陰謀」「普通の検察や、東京地検特捜部の捜査体制」「自白強要の問題」「被疑者とのコミュニケーションや交渉」など、検察のことについて基礎知識を超える知識を持ったこともなかった僕において、そのニュアンス感がわかったことは大いに実になりました。もちろんフィクションであることは承知のうえですが。

特に、物語前半の、幼女殺害事件を立件する流れは、裁判ギリギリの証拠集めと一発逆転っぽさこそフィクションっぽさがあるものの、個人的には面白いパートでした。(この頃は、主人公は東京地検特捜部ではなくただの検察官なのですが。)

なお、この小説においては宇宙行政についての話も半分くらいが締められています。私は明確に「東京地検特捜部ってなにしてるんだろう」という部分に読書目的をフォーカスし、むしろシリーズ次作の「標的」のためにこの本をまず読んだ目的もあったため、あまり宇宙行政の話は頭にはいっていませんw どこまでがフィクション色が濃く、どの程度が「丁寧に取材してて実態に近いか」というのは、もし他に感想などまとめられている人がいれば知りたいな、とは思います。

ということで、「東京地検特捜部の疑似体験ができる本」ということで真山仁さんの「売国」。おもしろく読めた本です。おすすめします。

 

売国 (文春文庫)

売国 (文春文庫)